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猟の話〜10〜

11月17日(土曜日)

朝、5時頃から何度かタツさんとゴンちゃんの携帯に連絡が入る。
が、二人ともすぐに切って、また寝ているので「やっぱり今日はナシか」と再び寝る。
8時頃だったか、ゴンちゃんに電話が入ってゴンちゃんが飛び起きる。

「タツさん!小野さん達、もう山に入ってます!」
「・・・え?最初、俺に電話があった時、また後で連絡するってことだって、そのあと、お前のところに電話入ってたよな」
「・・・はい。すいません。寝ぼけました。”待ってるよ”っていう電話だったと思います!」
「え〜!!!」

急いで着替えて飛び出す。勿論朝ご飯なんて食べてる余裕は無い。
この数日間はかなりドタバタで、3食キッチリというのは無く、食べられる時に食べておくというような感じだった。実際に脂肪はかなり落ちたんだけど、何故か体重は変わってなかった。全部肉になったのか?

大慌てで山への入り口に取り付く。無線を入れると、小野さんには届かなくて、ターさんにだけ届く。どうも、尾根伝いにお互いが向かい合って歩いている様な感じみたいだ。

別の場所から入って、追い上げて行く。勢子をしながら、獲物を見つけ次第撃つといった感じだ。先頭はゴンちゃん。続いてタツさん。僕は最後。

タツさんが先頭をゴンちゃんにしたのは、まだ大物を仕留めた事の無いゴンちゃんにチャンスを与えてやろうと思ったのと、先頭を歩かせて経験を積まそうとの親心だった様だ。
タツさんはゴンちゃんをボロカスに言ってるけど、かなり可愛いらしく、二人を見ていると微笑ましい。

山道自体は険しい訳でもなく、登山道だと思うのだけど、足を滑らせると横は結構傾斜がある崖。ボ〜っとしていると危ない。途中何度か樹が倒れていて、ゴンちゃんとタツさんは難なく乗り越えていくのだけど、僕だけ金玉を強打する。自分の短足を心から恨むと同時に笑えてニヤニヤする。痛いやら、面白いやら。短足も、それを楽しむ境地に入ると、結構自分で自分を笑えるものなのである。

途中、何度も怪しそうな場所を通過する。下り斜面の崖の途中、熊笹の薮・・・・実際に姿を見ただけで、カモシカ二頭、跡でいうと、鹿(?)、イノシシ、熊・・・大物全部だ。「こりゃあ出るな」っていう感覚があるみたいで、タツさんも機嫌が良いのと悪いのとが混ざった様な、独特の感覚になっているみたいだった。
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獣の居る場所っていうのは、本当に独特の気配がある。
僕が感じたのは、決して暗いわけでは無く、むしろ明るい場所が多かった様に思うのだけど、なんというか重〜い「気」の様なものが満ちているところ。「・・・なんだかなあ・・・」と思っていると、タツさんもそこにピリピリさせているので、あながち間違いでないのだろう。
ただ、残念ながら、遠くの動物の視線を感じ取ることは出来なかった。カモシカがこちらを見ていても、案外気付かなかった。先を行く二人が読もうとしている気配を読もうとするばかりで、山に自分自身の注意を払っていなかった様な気がする。

一本の沢に取り付く。ゴンちゃんとはここで別れる。ゴンちゃんがこの沢を登って行き、タツさんと僕が尾根から回って行く。
「じゃあ」
と、別れた瞬間、ターさんから無線が入る。

「小野さんが仕留めました。運び出しお願いします」
「・・・え?もうですか?」
「はい」
「モノは?」
「鹿」
「鉄砲、聞こえなかったけど」
「ナイフで獲ったんでないか?(笑)。山の反対側だから、分かんなかったんだろうな」
「ターさんからは小野さんの無線届いてるの?」
「入ったり入らなかったり」
「俺の無線には全然入らないよ」
「お宅さん方のハンディーじゃ、無理だろうな」
「ま、じゃあ、ともかく向かいますよ」
「(笑)了解。俺も向かうから。じゃあ、現地で」

「あ〜あ!面白くねえなあ!入ったばっかなのにな〜!」
「せめて銃声でも聞こえてればねえ(笑)」
「そうですよ!まったく無線も聞こえずに、わけわかんないうちに”獲れましたよ〜!”ってね!あ〜あ、銃かついでピクニックだなあ!」

「達也、聞こえる?」
「聞こえますよ、ターさん、どうぞ」
「俺、お前さん方が通って来た斜面辺りの上に今、居るんだけどね。お前さん方は車に戻って、入り直した方が近いと思うんだわ」
「いや、もう面倒くさいから、巻きますよ」
「おお、巻いて来るかい?」
「ええ、そうします」
「了解。ところで、今日は、相棒は?」
「相棒って岡居さんっていう理解でよろしいですか?(笑)」
「ええ、もちろんです(笑)」
「ゴンも居ますよ。さっきから唐松の葉が落ちて来るって思ってて、良く見たらゴンの毛でね〜」
「(笑)これから、ゴンちゃんの番号、21でいいんでないか?」
「(笑)リーブ21番さん」
「・・・・丸聞こえですよ、どうぞ・・・・」(ゴンちゃん)

山を巻いて、反対側に出る。これが結構傾斜がきつくて、足がかりが悪い悪い。途中2度何度足を入れ直しても滑る場所でズルっと行って、横にひっくり返った。とはいっても傾斜が45度以上あるのを横に歩いていたので、ちょっと倒れただけだけど。

「ヒロさん、大丈夫?・・・あ〜、しんでえなあ!失敗したなあ!!暑〜っ!!」
「大丈夫です!しっかりカメラをかばいました」
「(笑)」
「ついでに受け身もしました」

本当、こういうところでとっさに柔道とか少林寺の経験って出るものだ。長い事していた割には、たいして真面目にやってなかったのに。

この日の為に、毎日走り込んだり、山を駆け足で登ったりしていたお陰で、身体は全然キツくなかったし、思った以上に歩けたと思うんだけど、暑くて暑くて。。。。身体にたまった熱を開放する服装を考えないといけないな。あと、水をタツさんにもらってたんだけど、リュックの奥に入ってしまっていたので、すぐに取り出す事が出来ずに、「あ〜、水分が切れてパフォーマンスが落ちている」というのはかなり実感した。考えてみれば、神戸でトレーニングしているときは、事前にかなりの水分をとったりして、非常にいつも恵まれた条件でやっていた。これがもっと水無し、食料無しで、夜になって冷え込んだり、ビパークしないといけなくなったりという極限に近くなったら、いち早くダウンしてしまうのは目に見えた。
実際、僕は水泳をしていたから、肺活量が通常の大人の倍ぐらいあるし、循環器も強いそうで、血液もサラサラ。だからもしかしたら、歩く、走るっていうことで考えたら僕が一番持久力があるかもしれないなあと、二人の状況を見ながら思ったのだけど、条件が少しでも悪くなると、いち早く生命に関わってしまうのは僕だろうと思う。
平地で作った理想的な身体と、山で作られた山に理想的な身体とは根本からして違う。これは、あとで嫌という程、思い知らされる事になる。

山を巻きに巻いて、小野さんのところに到着。それにしても、こういう巻き、山を知り尽くして、何度も道無き道を分け入っていないと、絶対に出来ない芸当だろう。ともかく、六甲山でも、山の感覚が身につくまでは、真似しないでおこうと思う。

「おめでとうございます!」

言いながらタツさんと二人、裸になって、汗を拭く。綿のTシャツはビショビショだ。身体の汗を拭いた後にそれを着たら、冷たくて凍えそうだった。仕方ないので脱いでリュックにしまって、毛のジジシャツを直に着ると、一瞬汗に濡れたところだけ冷たかったのだけど、すぐに(2、3秒で)逆に暖かくなった。毛は最強だ!素晴らしい。
ところでウールの靴下っていうと暑く感じると思うんだけど、実際にはウールは温度を調整してくれるみたいで、夏も涼しい素材なのだ。外気を遮断して体温を守ってくれ、湿気を包み込んで逃がすらしい。だから、犬もサマーカットにあまりしない方が良いって言うし、人間の頭にしても、坊主はかえって暑かったりする。
毛のものが沢山売っている冬の間に、沢山ウールの下着を買い込んでおこう。
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仕留めた時の状況を聞く。どうも勢子に追い立てられたものを、という様な感じではないらしく、ハーレム状の群れで居た鹿で、二頭居たオスのうち、大きい方の一頭をドーンとやったそうだ。ダーっと走って逃げて行く群れの中から狙いを定めるなんて、小野さんもすごい腕だ。恐れ入る。
小野さんは、他にも向こうの尾根辺りに熊が居るのも見たそうだ。子連れだったらしい。
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到着に時間がかかったので、着いた時には鹿は内臓が処理されていた。鹿はすぐに血抜きして処理しないと、肉に酸っぱみが出るらしい。腹もすぐにガスでふくれてパンパンになる。

それにしても大きな鹿だ。色も真っ黒だ。タツさん達は「ドイツ系」と呼んでいる。最大級のエゾジカ並になる個体もいるらしい。
前にニホンジカの研究家に聞いたら、確かではないらしいけど、ハンティング目的で、ヨーロッパのアカジカが日本で放されたことがあったらしいという話だ。それがここ、水上で生きて、ニホンジカと交合していき、独特のものが生まれたのだろうか。その研究家に「それって、研究したら面白いんじゃないですか?」って聞いたのだけど、ジャンル違いなのか、まったく興味無さそうだった。
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熊の時と同じく、ヒモをかけて山を降ろす。今回も写真を撮りまくろうと思ったのに、慌てて出たためか、昨日呑んで入れ間違ったのか、充電をした方の電池を置いて来て、残量の無い充電池を持って来てしまっていたために、写真をあまり撮ることが出来なかった。
そこで、鹿を引っ張るのを志願する。皮をなめすんだから、自分で降ろしてみたい。
ロープを身体にたすき掛けの様にして引っ張る。
「う!?」びくともしない。
身体を前に倒れそうな位に傾けて引いて、ようやく動き出した。でもまあ、なんて重い!20歩ぐらいで既に太ももの前側の筋肉、大腿四頭筋、がパンパンにパンプアップしてしまったのが分かる。頭の血管が切れそうだ。なんて重さだ!これは大変な作業だ。
もちろん、慣れていないせいもあると思う。後で他の人が引いている写真を見ると、「ああ、こうやって引くのか!」って気付いたところもある。でも、タツさんも、ゴンちゃんも、結構余裕で引いている。でも本当、僕は余裕なんてこれっぽっちも無かった。数十メートル歩いただけで、ゴンちゃんの「代わりますよ」の一言に救われてしまった。ああ、情けない。。。
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あまりに情けなかったので、家に帰ってから配偶者を背負ってスクワットなんかもしてるんだけど、そういうのは結構余裕で回数をこなせる。本当に、平地で作った理想的な身体と、山で作られた山に理想的な身体とは根本からして違うのだということを、思い知らされた。

またしてもブルーになる出来事であった(笑)

〜「鹿の解体」へ続く〜
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by oglala-beads | 2007-11-29 12:51 | 2007年・水上(群馬)初猟

猟の話〜その9〜

11月16日(金)

朝起きたら、すでに8時を回っていた。外は明るく晴れているのが、やたらと巨大な液晶テレビ越しに見える。窓は結露しているので、外は寒そうだ。
タツさん、寝坊かな、と寝室を覗くと、布団が身体の形にポコンと膨らんでいる。ははあ〜と笑いをかみ殺しながら起こそうとしたら、もぬけの殻だった。這い出る様に布団から出たのだろうか。ちょうど冬眠から醒めた熊が穴から出る様に(笑)

かなり熱っぽい。喉が熱の味がする。全身に倦怠感がある。あかん。もうちょっと寝て熱を抑えなきゃ。

携帯電話が鳴る。慌てて出たらタツさんだった。
「ヒロさん、今から尚文出るんだけど、出れる?」
「お・・・おはよございます。あれ?今、何時っすか?」
「え?寝てたの?もう12時過ぎてますよ!」
「ああ、すんません。実は熱っぽくて。あ、でも大丈夫です。罠見に行くんでしょ?」
「そうそう。それからどっかで飯食って。行けます?」
「ええ、全然大丈夫です。今から用意してすぐ出ます」

まだ少し頭が重い。厳重に着込んで、バーヴァーのファスナーをしっかり閉めて、体温を逃さない様にする。スパイクの長靴を履いてマンションを出る。外に出て、マンション前を流れる利根川の橋のところに立って、谷川岳を見ていたら、ちょうどタツさんが来た。

「ヒロさん、風邪、大丈夫?」
「やっぱ、ひいちゃいましたね。でも大丈夫。僕は風邪を半日で治す特技があるから。ま、押さえ込むだけなんだけど(笑)」
「あははは(笑)、そうなんだ。罠、かかってかな〜。かかってるといいんだけどなあ〜」
「昨日雨ちょっと降りましたもんね。コンディションとしては、いいですよね」
「そうそう。跡が消えますからね。罠をしかけた」

罠場に到着。残念ながら獲物はかかっていなかった。
「うわ〜、悔しいなあ〜!本道を歩いてやがる!裏をかいて枝道の方にかけたのになあ!」
慎重に罠道を読み解いてゆく。全身、五感を研ぎ澄ませてあらゆる気配を読んでいるのが分かる。わざと少し離れて、出来るだけタツさんと同じ歩調でついていった。
そうして歩いていると、自分も最初にこの罠場に来たときとは違った感覚でモノを見る様になっているのが分かった。なんというか、滅多矢鱈と目を配るのでなく、目以外の感覚を使って、空気で「ここはやばそうだな」という気配の様なものが分かって来た。ある程度、タツさんと距離を置かないと、その気配は消えてしまう。気配を頼りにしていくと、イノシシが身体を擦った樹が、案外楽に発見出来た。そこから気配を辿って行くと、またその先に足跡があったりした。
なるほど。こうやって読むのか。
何回かは、タツさんより先に見つけて、「ここに痕跡あります!」って教える(?)ことも出来た。

そうやってタツさんと森の中に居たのはほんの30分ほどだと思うのだけど、ものすごく充実した時間だった。歩調を合わせることで、近くに居なくても同じ気配を読むことが出来る様な気がした。タツさんが、僕の中に眠っていた、全然使った事のない領域を目覚めさせてくれたんだと思う。風邪はもうふっとんでいた。
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途中、なんか広いんだけど、重い道を歩いていて、イノシシがミミズを探した跡を見ていたら、タツさんが、
「犬が来てる。そんなに古い跡じゃない。もしかしたら今朝かもしれない」と言った。
「鳥撃ちですか?そういえば昨日、セブンイレブンの近くから山に入るところで、バンが2〜3台止まっていて、大きな紀州犬が居ましたよ。あれかな?」
「へえ?犬、一頭だけだったんですか?」
「ええ、少なくとも、見えた範囲では一頭だけでした。何人かの人が気付いてたみたいで、解体の時話してましたよ。大きい紀州だったなって」
「ふ〜ん。まあ、第二ラウンドやるときも、犬いたしね。でもなあ、これ、なんか紀州っぽくなくて。。。外国の犬っぽいような・・・」

前の日、第二ラウンドが始まる前、最初に入山しようとしたら、タツさんが突然、

「あ!ハンターが先に居る!犬連れてる!」と言い出した。
「え?なんでわかる?」
「いや、見えたんですよ。そこの杉の林の向こう」
「え?見えねえよ。見間違いじゃねえのかい?」
「いや、本当。居たんだって。ちょっと行って来ますよ」
「俺も行くよ」

タツさんとターさんで出かけて行った。ほどなく戻って来て、その後から犬を載せた車がゆっくりと出て来た。

「鳥撃ちらしい。ここはもう出るみたいで、俺たちはこっちから巻きをやるから、あんたはあっちから入ったらどうだいって言ったら、そうするって。向こうに行ってた獲物が、あの人が入る事でこっちに戻って来るぞ。イシシ(笑)」

まあ、お互いに獲物を追い合う様な形になる訳で。
それにしてもタツさんの目の良さ、恐れ入る。

森から出て、罠の場所、明日の猟場の事等で小野さんに電話を入れる。喋っていたタツさんが、

「え?小野さんも今朝、ここ来たの!?」と笑い出した。
「え?犬連れて来た?・・・あ、やっぱり!ああ、あの足跡、XXだったんだ!なるほどなあ、紀州にしては違うなあと思ったんですよ。ははは(笑)、おもしれえ〜・・・・・・ま、じゃあ、明日の場所、また決まったら連絡下さい・・・・・・ええ、じゃあ。・・・・ヒロさん、あの足跡、小野さんの犬だって!今朝来てたそうだよ!おもしれえなあ〜(笑)」
「なんかすごいっすね(笑)」

その後も何カ所か回って、タツさんがあらかじめ見込みをつけていたところを見る。来始めている形跡がある。でも本命はさっきの森だ。

「さ、じゃあ、戻りましょうか。ヒロさん、ご飯、どうします?俺、ちょっともう一緒に食ってる時間が無くて」
「ああ、うん。マンション前でおろして下さい。温泉街でしょう?色々と食べ物屋、ありそうだし。あ、おすすめの店あります?」
「う〜ん、ちょっと歩くんですけどね、カツカレーの美味い店ありますよ」
「お!いいっすね!それ行きます!どれぐらいの距離なんですか?」
「ん〜っと、マンションから2キロ・・・・3キロは無いかな」
「じゃ、そこ行きます」
「俺もコーヒーだけ飲んで行こうかな。そこね、仲いいんで、俺なんて、入ったら勝手にカウンター入って、コーヒー入れて飲んで帰るんですよ。しばらく行ってなかったから、俺も話だけして帰ろう」

ということで、その店に到着。ドライブイン風のレストランだ。

「どぞ」

といってタツさんが扉を開けて先に中に入ろうとした瞬間、身を翻して外に出て、僕を中に押し込む。

「こんちわ!・・・・あ、俺は今日は時間ないんで!・・・友達連れて来たんです。カツカレーお願いしますね!・・・・・じゃ、ヒロさん、ゆっくりして行って下さい!」

といってイソイソと車に乗り込む。あれ?コーシーは?という間に、車は見えなくなった。まあ、いいや。

「おっちゃ〜ん!ごめん!カレー、大盛り出来るかなあ??え?出来る?じゃあ大盛りでね!うん、カツカレーで!おっちゃん、美味しいらしいやん!楽しみやなあ」

カウンターにはお客さんで、若干目の鋭い、水っぽいおばさんがタバコをふかしてこちらを見ている。軽く会釈する。

携帯のバイブが鳴る。メールだ。配偶者か?え?タツさん?

「ごめん、ヒロさん!愛想なしで!カウンターのババア、苦手なんすよ!すいません!」

ははあ。そういうことか(笑)

そのタツさんの苦手なカウンターのお客さん、僕が帰るまでずっと心霊現象とかスピリチャルな話をしていた。そういうところが苦手なんかな?(笑)

カレーが出て来る。・・・・いや、確かに大盛りって言ったけど・・・・これ、3人前はあるよね・・・喰えるかなあ・・・・・

残すのは、ケチな関西人の名が泣く!頑張って・・・といいたいけど、結構楽にペロっと食べてしまった。さすがに最後の2口はかなりキツかったけど。

食後にはコーヒーが出て来た。

そういえば、水上来てから便秘気味。タツさんの家のトイレを臭くするのも嫌だったので、ここでしていこう。10分程、フン闘。

「おおきに。まいど」と、普段家でもあまり使わない言葉を使って会計を済ませて外に出る。
地元の人も、「今日は冷える」と言っていたが、僕は厚着のせいか、かえって気持ちいい。
スパイクをアスファルトでガリガリ言わせてマンションへ。15分程か。利根川の源流沿いに歩いて帰る。恐ろしく奇麗で透き通った河。ちょっと降りてみたかったんだけど、スパイクで岩の上を歩くのは自殺行為だからやめておいた。
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途中国道沿いに「谷川開発管理地」と書かれた看板の付いた店舗兼住宅の売り地が出ていた。こんなところでだったら鞣しとか、しやすいだろうな〜とかぼんやりと考える。

空は暮れかかっていたが、トンビが飛んでいた。こっちのトンビはなんとなく白くて、尾羽の形も違うし、羽の角度も違う。あれ?なんだ?チュウヒか?ともかくトビじゃないな・・・・って着いた早々は思ったものだったが、結局トビだった。でも、きしなの電車の中から、シジュウカラの混成群が猛烈な速度で逃げてる後ろを、オオタカらしき猛禽が追って行くのを見た。鳥好きにとってもたまらない場所だ。

子供がちょうど、中学校から帰る時間らしい。幹線道路に面していて、交通量も多くて流れも早いので、対向車線側の歩道に出るには、陸橋を通る様になっている。

丘から流れ出た水が溝を伝っている。非常に奇麗な水だ。それが下まで行き着いて、でもそのまま勢いを失わず、こんどは横の家の溝を、家に向かって登って行っている。家は相当高いところにあるので、いったいこの水、どこで反転するんだろう?んで、反転した水が流れている気配はないけど、いったいどこを流れて落ちているんだろう?と思っていたら、そういう干渉場所みたいなのがあって、一部は歩道に流れて来ていた。それにしても反転した水の流れは?あ、そうか!底の方を流れているのか!っていうんで、溝に腕まくりをして手を入れていると、下校途中の女子中学生達が横目でニヤニヤして、離れて何かを言いながら通り過ぎて行く。
思いっきり大きなクシャミをして立ち上がる。中学生達は笑いながら小走りに遠ざかって行く。

奇麗な鉛色の空に、柿の実がよく似合っていた。



マンション着。部屋に戻って、配偶者に電話を入れて、ここ数日の詳しい話をする。
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「ねえねえ、ところで、今、タツさんの部屋なんでしょう?」
「うん。そうやで」
「ね、ね、どんな感じ?なんかイメージではものが少なくて適度に片付いている感じなんだけど」
「う〜ん、ちょっとイメージとは違うかな(笑)。モノは溢れているね。適度に散らかってるかな(笑)」
「へえ!そうなんだ!ちょっとイメージとは違うなあ。。。ああ、でも片付けてあげたいわあ!ね、ね!やっぱりカップラーメンとかって無いんでしょう!?」
「あ、カップラーメンはねえ・・・うん、かなり沢山常備してる様子」
「あら、そうなの!?でも、タツさんだったら許せるわあ〜!!いいなあ〜!タツさんの部屋の写真、撮って来てよ!」
「え〜!?勘弁してよ!”何撮ってるの?”って怒られるよ!じゃあな、もう切るから!」
「あ〜、いいなあ〜私もタツさんの部屋に行きた・・・ブツッ」

チッ、まったく。

本棚から勝手に本を引っ張り出して読む。僕が興味ある本ばっかりだ。小説とかは無い様だ。
山系が多いんだけど、雑誌や、車やカメラの本なんかもある。
いつだったか、コンビニに寄った時、そういえば熱心にエロ本を見ていたけど(背中を小さくして)、部屋にはその手の類いは無さそうだ。立ち読みなのか。それとも隠しているのか。

まだ買っていなかった、マタギについての本を読む。う〜ん、なかなか面白い。これ、今度買おうかな・・・と思っているうちにまどろんで眠ってしまった。

再びタツさんからの携帯で目を覚ます。
「今、もう下に着きました!ゴンも一緒です!」とのこと。

ゴンちゃんは自称タツさんの一番弟子。かなりタツさんにボロカスのケチョンケチョンに言われているが、へこたれない。僕からすれば、いじられキャラ、かなり羨ましい。
前夜の解体後の乾杯の時も、ゴンちゃんの話で持ち切りだった。

「あれ?ゴンちゃんは土曜日来るの?なんで今日は来なかったの?」
「ああ、あいつ、アデランスだったんですよ」
「ああ、そう。それじゃあ仕方ないね」
「・・・・リーブ21の方が良くねえか?」

ゴンちゃんは普段は静岡辺りに住んでいるそうなんだけど、一応水上人だとか何とか。。。ちょっと良く分からなかったんだけど、なんせ鳥撃ちの専門らしく、大物には興味が無いのかなんなのか??ともかく皆がゴンちゃんをからかうので、ほんとのところはサッパリ分からなかった。

しかしまあ、パワフルな人だ。
「フゥ〜フゥ〜」が口癖で、タツさんにいつも怒られている。

「おまえにゃあ、肉は喰わせねえ。これはヒロさんに喰ってもらおうって思って持って来たんだから」
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「ああ!これ!!!ああ!!イノシシの脂!!!これ、なんつうか、脂が肉なんすよね!!フゥ〜!」
「なぁに、分かった様な事言ってんだよ(笑)・・・・たまにはいい事言うよな・・・・さあ、ヒロさん、食べてよ!これがイノシシの脂!本当、うめえんだって!・・・なんだよ、ゴン!なんか言いたそうだな!肉はやらねえぞ!」
「ええ、あ、いや、本当!・・・・っね!美味いっすよ!本当、これ、ね、なんつうか・・・・ああ・・・」
「いや、本当、そんな風に見てられると喰えませんよ(汗)。ね、一緒に食べましょうよ」
「あ・・・・タツさん、いいっすか!?・・・・あ、いや、僕は喰った事あるんで・・・ああ・・・」
「いや、本当、もう、そんな見られてるとよう喰わんので(笑)」
「ああ、すんません、頂きます!・・・・んめ〜!」
「じゃあ、僕も失礼して・・・・タツさん、頂きますね!」
「どうぞどうぞ!」
「・・・・ああ、ゴンちゃんが言った”脂が肉”っていうの、凄く分かる!」
「でしょう!?たまにはこいつもいいこと言うんですよね」

その他にも、先日穫ってくれていた椎茸とか、もう自然に美味かった。言葉に言えないんですよね。上手い表現が無い。スっと馴染む味。我々の祖先は、この味をもともと食べていたのかもしれませんね。

そうこうしているうちに、タツさんのお母様がいらっしゃった。沢山の食べ物を頂く。短い時間だったけど、計4人で本当に楽しい時間を過ごした。
で、気付いたらもう大概遅い時間。

「明日の猟はどんな感じなんですか?」
「まだ何も決まってないんですよ。どうなんだろうな?なんか中止っぽいですね」
「ああ、そうなんだ」

「ところでヒロさん、今日、罠見に行ってた時、わざと少し離れて歩いたでしょう」
「・・・あ、ばれてました?」
「それに歩調も合わせてた」
「・・・はい(笑)」
「それ、いいことですよ。自分で感じ取ろうとしてんだから。初心者は出来るだけくっついて歩こうとするんですよ。まあ、それの方が色々と教えられるんだけど、問題もある」
「自分で見つけないと応用しにくいってことですか」
「・・・・そうそう・・・・」
「(笑)タツさん、半分寝てますやん」
「ああ!眠い!駄目だああ!」
「明日は中止っぽいってことだし、まあ、ゆっくり寝ましょうか」

ということで就寝。

「ゴン!おめえは廊下だ!」
「え!?あ、はい!そりゃあもう・・・」
「玄関出た廊下だぞ!!」

〜つづく〜
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by oglala-beads | 2007-11-27 09:49 | 2007年・水上(群馬)初猟

猟の話〜その8〜

「解体」
注意!本日の日記は解体現場の写真が多く、血を見るのが苦手な方には体調を悪くする恐れがあります。本来、別ウィンドーで開く様にする等の配慮が必要かもしれませんが、あえてそのまま掲示いたします。そういった映像が苦手な方は、本日のブログはスルーでお願いします。

「ブドウが沢山なってたでしょう?あの沢」
「ええ、沢山は気付きませんでしたけど、ありましたね」
「ヤツは、あれを食べに来ていたんですよ」
「ああ、そっか。足の裏も小さかったし、じゃあ、あの足跡の主では無いですね」
「そうですね。尾根を二つ跨いでいるみたいだし、オスかもしんない。居るんですよね。結構、ここ」

実は昨日タツさんから連絡が入って、第二ラウンドの前夜にタツさんが提案して却下された場所に熊が3頭入っている(居る)のが確認された(見切られた)らしい。他の動物の跡も多く、タツさんの見切りの、恐ろしいまでの正確さを物語っている。

「ブドウを食べに来るってことは、もう冬眠準備が出来たんですよ。それでブドウを食べる。デザートなんですよね」
「???確か冬眠前って、何も食べなくなって、繊維質のものを最後に食べて、けつの穴の栓にするんですよね?”止めグソ”とかって言うんすよね?」
「うん。その止めグソの前に甘いものを食べるんですよ。だから、腸の中、多分冬眠準備に入ってると思いますよ。ヒロさん、これから小野さんのところに行って、解体を見て来て下さい。俺、ちょっと尚文戻って仕事しなきゃいけないから」
「え?今日は全日休みじゃなかったんですか?」
「そうだったんだけど、最近ずっと満室続きで。。。なかなかそうもいかなくて」

尚文は、つい最近も西郷輝彦が来る旅行番組でタツさんに密着取材があったりで、知る人ぞ知る宿としてリピーターさんが多い。僕が尚文の厨房でタツさんお手製の揚げたてのテンプラなんぞを頂いている時も、しょっちゅうリピーターさん達から予約の電話が入っていた。この時代、なかなか感謝して自分の腕で獲って来た獲物を出す様な宿は少ない。「こだわり」なんて言っても、宿に関わらず、通り一遍なものばかり。仕入れ先は皆同じ。そんな中にあって、タツさんの料理へのこだわりは生半可なものではない。

「でも、今日の場所を見切ったのタツさんだし、主役みたいなもんやないですか。居ないと皆、寂しがるんじゃないですか?」
「いやいや、それは無いけど(笑)・・・出来るだけ早く終わらせて行きますよ。」

ということで、タツさんのマンションの前でタツさんの車から降りて、駐車場で堂々と裸になって着替えをする。Tシャツはビショビショで絞れるほどだった。やばいやばい。風邪ひくところだった。着替えを持って来ていて良かった。
マンションからは、ユウ坊さんの車で小野さんの家へ向かう。ユウ坊さんは千葉在住なんだけど、群馬で狩猟登録をされている様だ。ミクシーで何度か顔を合わせていたのだけど、絡んだ事は無いし、お会いするのは初めて。とても気さくで優しい方だが、芯がしっかりしていて足が地に着いている様な安定感のある人だ。おまけになかなかの二枚目である。タツさんが一人暮らしをしているリゾートマンションにも部屋を持っているそうで、水上滞在時はここに居られるのだそう。

「今晩、帰らないといけないんだよ」
「え!?マジっすか?じゃあ、あまりお酒呑めませんね」
「ね〜、残念だね〜・・・あ、ちょっとごめんね、家族にお土産買って行きたいんだよ。ちょっと待っててくれる?夜だと開いてないから・・・」

といって路傍にあるリンゴの直売所に寄る。
そういえば僕も家族にお土産を買いたいな。と、ユウ坊さんにくっついて直売所に入る。試食があったのだけど、ユウ坊さんが「これ、美味しい!」と決められた、「群馬水月」というリンゴの甘さに僕もすっかり魅了されてしまった。そういえば母は大のリンゴ好き。配偶者も好きだったはず。で、荷物に入るかを心配しながらも、2パックも買い込んだ。

「いやあ、ユウ坊さん、お陰様で良いおみやげが出来ました!ありがとうございます!」
「いやいや、良かったね〜」
「・・・あ!今、道を何か黒いのが横切りましたよ!」
「え!?本当?あそこ結構熊とか居るらしいよ。熊じゃないかな?ちょっと足跡見とこうか」
「う〜ん、熊にしては平べったかったんですが・・・」
「イノシシかもしれないよね。黒く見えるとしたら、熊かイノシシだと思うんだけど」

Uターンして見たものの、それらしき足跡は無い。第二ラウンドの熊と違って、今度はハッキリと見た(様に思うー笑ー)。大きさからして、タヌキかもれしないということで落ち着く。

小野さん宅へ。もう大分人が集っている。

「あのね、キー坊君、悪いけど、人数分、弁当を買って来てよ」
「あ、俺、もう少ししたら帰らないといけないんですよ」
「あ、そうなの?じゃ、本当、申し訳ないんだけど」
「・・・・・・・・・」

やっぱりキー坊さん、いい人みたいで、使われている(笑)。そういえば、

「明日、忙しいんだよ。ボランティアに行こうと思ってて」
「休みゃあ、いいじゃん」
「そんなわけにいかねえよ(笑)、俺の方からお願いして、行かせてもらうんだもん」

って会話があったような。顔は本当におっかない人だから、そのギャップが余計いい感じ。
そのキー坊やさん、先日ついに大物を仕留めたらしい。なんか自分の事みたいに嬉しかった。

「・・・じゃ、行って来ます」
「うんうん。悪いね。頼んだよ・・・・・・キー坊君のジムニー、すごい白煙だよね。後ろ走っていると、前が見えないんだよね(笑)」

そうこうしているうちに、回りは真っ暗になっていた。電球を持ち出して、ビニールシートを下に敷いて、解体が始まる。

まずは熊の身体を簡単に洗う。
次に皮に切り込みをいれていく。執刀(?)はタツさんの師匠、ターさんだ。みな、あだなはカタカナ一文字が多い。僕も「ウーさん」なんて呼ばれたいものだ(僕の名前のどこにも”ウ”はないけど)。
この切り込みの入れ方にはものすごいコツが要る。不用意にナイフを入れると、内臓に傷をいれることになる。また、切る形によって、鞣した時の革の形が変わる。
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水上でとった熊を鞣す場合、昔は寝る時に下にしていたそうで、これを敷くと、どれだけ寒い夜でもトイレに行かずに済んだのだそうだ。だから必要以上の柔らかさも要らないし、形は出来るだけ四角く仕上がる様にする。
通常、壁掛けにする場合は、出来るだけ熊っぽい形に切るため、切り方自体が大分違うのだ。
その秘伝の切り込みの入れ方も見て、写真に撮る事が出来た。「やれ」って言われても、出来るかどうかは分からないけど(笑)
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次に内臓を抜いて行く。まず、尿が溢れない様に膀胱の口を縛る。次に大腸をしごいて便を出し、肛門に新聞紙を詰めておく。
腸の中にはまったく便が無く、奇麗そのものだった様だ。タツさんが言っていた様に、冬眠準備の最終段階だったのだろう。
そうして外した腸は一カ所にまとめられる。熊のモツは美味いのだそうだ。

「これは達也(タツさん)が喜ぶからな。置いといてやるんだ」
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次に心臓等、色々な臓器を取り出して行く。それらも一カ所にまとめる。と、そこで、

「ほら〜、これが熊の胆(い)だ」
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と胆のうが出て来る。熊の胆は漢方薬として非常に高価で、今も昔も「熊の胆1グラム=金1グラム」と言われている。熊猟師の一番大きな現金収入だ。本来は、穴入り(冬眠)前の熊よりも冬眠から醒めた直後の熊のものの方が良質と言われている。
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胆汁がこぼれない様に、慎重に口をヒモで縛って取り出す。取り出されたものは犬にイタズラされない様に、いったん高いところに吊るされた。
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内臓がすべて取り除かれ、いよいよ肉の解体にかかる。と、ここで、

「暗いから車庫に移そう」

ということになる。
以前、熊の生皮をタツさんに頂いて鞣した時には、結構脂の臭いがしていたが、やはり新鮮なせいか、食べ物のせいか、臭いが全然しない。
食べ物といえば、今年は木の実が大豊作だったようで、この熊は非常にでっぷり肥えている。縦の大きさより、横の大きさに驚いてしまった。

「身体の割に、手足が短くて、手のひらもちいせえよな」

人間で言うと、山田花子型か。

沢山食べれてるから、今年の熊は冬眠に入るのが早そうだとの事。

兵庫の山は、ほとんどが人口植樹なので、杉がメインだ。見た目、9割杉といっても良いかもしれない。なので、ドングリが不作で熊が人里に降りて来たら「こんな山にした人が悪い」ということになるんだけど、水上の山は杉が本当に少なく(一部多いところもあるが)、逆に杉があると年中黒いので目立つぐらいだ。そういうところでドングリが凶作だからといって熊が降りて来ても「人間が悪い」っていうのはちょっと違いそうだ。都会に住む人間は、熊が駆除されたといっては、(こんな山にした)先人が悪いと言ったり、(熊に襲われる様な)里山に住んでいる人間の方が悪いのだから、駆除なんてとんでも無いと言う。色々な考え方があるから、先人のせいにしたり、里山に住む人のせいにしたりするのは勝手だけど、少なくとも彼らは先祖代々そこに住んでいるのであり、彼らが居たお陰で動物との住み分けが出来ていた事、そして必要があったから先人達は山を切り開いていったことも忘れてはならないと思う。皆、両者の世話になっているのだ。何かを非難するよりは、それを認めた上で、次に何をすべきかを考えるべきではないか?

水上は資源が豊富で、よその地域に比べると野生動物の数も多い様だ。特に熊に関しては、他の県がどんどん熊の駆除や狩りを制限もしくは禁止しているのに対して、まだ規制は緩いと思う。それに対しては保護団体等から恐らく多いに叩かれているのではないかと思う。いずれ水上でも熊猟は禁止になるのではないかと思われる。しかし、ここ水上では、昔、猟師達が熊の生態数を上手く調節して里山の住み分けのルールを人と熊との間で作っていた様に、今でもその役割を猟師が上手く担っている様に思う。懸念すべきは、外部からのレジャーハンターの流入だろうか。

熊の胆が金になるからといって、熊の駆除という名目で乱獲されている県もあるそうだ。しかし、ここ水上で、少なくとも僕が見た猟のグループは、実際に熊の胆を、目の色変えて欲しがっている人は居なかった。他の人への遠慮もあったのかもしれないが、皆、熊の肉と脂を均等に分けてもらったものを、ビニールに入れ、嬉しそうに持って帰っていた。僕もいっちょまえに人数に入れてもらった。そして、あとにはほぼ、何も残らなかった。捨てるものは殆どなく、皆、食べたりして利用された。

インディアンのハンター達が、獲物を無駄にしないという事を尊ぶのなら、水上の、タツさん達のグループも尊ばれるべきであろう。インディアンのハンターは、白人に毛皮を売る様になってからは処理しきれない程の獲物をとって腐るにまかせていたこともある。タツさんのグループは、先祖代々続いて来た巻き狩りの伝統を守る事でもある。だからこうやって解体を若手に見せ、積極的に参加させているのもあると思う。

そんなことも考えて、今回は僕は解体には手を出さなかった。たまに切りにくいところを押さえたりしたぐらいだった。あくまで今回は撮影係に徹した。本当は、特に皮剥ぎを、すごくやってみたかったのだけど。
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そんなことを考えているうちに解体は完了した。本当、あとには何も残らない。ごく一部を山に返しただけで、殆どが皆に分配された。
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さて、熊の胆と、皮は?

熊を最後しとめたハンターさんの所に行って、ターさんが、巨大な背中を丸めて申し訳無さそうに、言いにくそうに、

「あのさ、もし出来たらなんだけどね、今回の胆、もらえないかな・・・・?」
「・・・ああ、いいですよ」
「いや、あのさ、実はね、俺の知り合いで、結構悪いガンのヤツがいてね、そいつがこれを呑むと随分楽になるって言ってね、前に俺がやったやつを、えらく喜んでいたのさ」
「ええ、ええ」
「でね、喜ぶだろうなあ〜って思って。いや、実は頼まれていたのさ。だからちょっと相談して金額出して、それを皆で分配させてもらって・・・」
「はいはい」
「悪いけど、それでいいかね?」
「ええ、僕は全然いいですよ」
「本当?すまいないね」
「いえいえ。全然」

「お〜い、皮、どうするね?」
さっきの熊を最後にとめた人が当然もらうだろうと思ったのだけど、
「いや、俺、家に一頭あるんで、いらないです」
最初に撃った人に聞くものの
「いや、いらないです」
との事。

皆が僕を見る。前にタツさんに駆除の熊をもらったことを知っているからだ。

「ここに居る人、みんな優しいから、”下さい!”って言ってみな!多分みんなあげる!って言ってくれるよ!」

ウ〜ン、正直、気持ちとしては本当、情けない勢子だったんだけど、やっぱり初参加の熊だったんで、やっぱりどれだけお金払っても欲しかったです。でも、前に熊を鞣した時の大変さ、家で鞣す事で色々出て来る問題や家族や近所の事を考えると、

「いや、もう、熊なめすのって、本当大変だから・・・」

という言葉しか出なかった。

最終的に、タツさんが鞣してみる事になったみたいだから、僕もそれ以上無いと思って純粋に嬉しかったんだけど、もう一度、生きているうちに日本の熊、ツキノワグマを鞣してみたいってそう思った。理想を言うと、自分が関係している熊だと最高だ。
まあ、遅かれ早かれ、僕も銃を持つ事になると思うから、その時に、そんなチャンスが巡って来てくれたら、本当、嬉しい。
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解体が終わって、皆で座敷で熊鍋を味わった。キー坊さんが買って来てくれた弁当も食べた。

「あ、弁当、一人400円ね」
「はいはい」

・・・・はっ、しまった!さっきリンゴ買って、持って来てたお金全部使ってしまったなあ!タツさんのマンションに戻らないと、無いや・・・

「小野さん、すいません、実は・・・・」
「ああ、もう、そんな細かい事、気にしないでいいよ。大きく行こう!大きく!人間がせせこましくなってしまうよ!」
「いや、しかし・・・・」
「もう、いいから!いいから!」

てことで小野さんにおごってもらってしまった。

ひたすら恐縮していると、タツさん登場。おおいに盛り上がる。

程なく、小野さん宅を辞す。

「岡居君、また、くるんでしょ?」
「ええ、絶対。それに土曜日も参加しますよ」
「そりゃあ、いいよ。これで土曜日も獲れる。君、うち、いつでも泊まっていいからね。本当、嫁さんに追い出される様な事があったら、いつでも来なさい」
「有難うございます」
「そうそう、家にね、余ってる鉄砲あるから。あげるよ」
「小野さん、ヒロさんを鉄砲ぶちに仕立てようと思ってるでしょう(笑)」
「いやあ、あんなのも、買うと高いからね。買わないでいいから。僕があげるから」
「いやいや、ほんま、まあ、その時はお願いします・・・・」

「小野さん、上機嫌でしたね」
「そりゃあ、めでたいもん」
「皮、なんで撃った人がもらわなかったんでしょうね。何枚あってもいいと思うんだけど」
「それね〜、俺が思うに、最初にXさんが尻を撃ってるでしょう?あれ、最初にぶったのXさんってことで決着したんですか」
「ええ、してましたね」
「じゃあ、Yさんからしたら面白くないでしょう。手負いを仕留めたって。だからじゃないかなあ」
「なるほど・・・・・」

その後、ユウ坊さんを交えて、一緒に大浴場へ。色々と話をする。多いに楽しかった。
*タツさんにリンゴを買った事「なんで地元に相談しないで買ってしまうかな〜!安く手に入ったのに!」と怒られてしまった(笑)

〜つづく〜
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by oglala-beads | 2007-11-26 12:59 | 2007年・水上(群馬)初猟

猟の話〜その7〜

「運び出し」

鬱々とした気分が一気に吹っ飛ぶ。手負いの熊がこっちに来るかもしれないという緊張感はすごい。死をかけて対峙する気になっていた。それだけに「とめた」という報告は、掛け値無しに嬉しかった。
3人、上機嫌で獲物が死んでいる沢に向かう。尾根を一つ二つ越えたところらしい。
降りる途中、さっき僕が見た黒い影についてタツさんに詳しく説明する。

「位置的に樹が立て込んでいて、ちょうどキー坊さんとタツさんからは見えなかった位置だと思うんですよ」
「でしょうね。全然分からなかった」
「正直、熊にしては小さい様に思ったんですよ。大きな犬ぐらいに感じたんです」
「あ〜、あのね、走ってる熊って、前後が詰まって小さく見えるんですよ」
「あ、そうなんや。。。それにしても、すさまじいスピードでしたよ。犬ぐらいあったんじゃないかな?」
「足跡もあったんだし、熊の可能性は充分ありますね」
「だとしたら、仕留められた熊ですかね?」
「尾根一つ向こうみたいだし、可能性は充分ありますよね」

確かに見た様に思ったんだけど、人間って、あまりに自分にとって非現実なものは錯覚と認識してしまう様ですね。僕もそうだったのだろうか。自分のすぐ横の斜面を熊が猛スピードで走っているなんて、やっぱりハンターで無い今の僕からしたら、非現実な光景だろうから。

沢の入り口に到着。
狭くて深い沢だ。
他の位置に居たタツメも集って来ている。
「ちょっと足場が悪くて険しいから、足悪い人は、ここで待機しててよ」
ということで若年組(とはいってもタツさんが一番年下だ)が中心となって沢を上がって行く。
滑って転んで、足をくじく人も出た。ケツゾリで斜面を降りる人も居る。
途中、タツさんの師匠のターさんは、帰路に邪魔になりそうな樹をナタでいとも簡単に伐採してゆく。
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「ヒロさん、ターさんはナタの使い方、凄いんですよ。簡単に切っちゃうから、見といた方がいいよ」
本当、やっぱりすごいな。
僕は居合道試し斬りをするから、日本刀を使って竹や藁を切るのは得意で、そこそこの成績を残しているんだけど、ナタは違うな。やっぱりモノが違うと力を入れるポイントが違うんだろう。次に猟に行くまでに、ナタの使い方もマスターしておこう。

15分ほど沢を遡って、獲物の熊とご対面。皆、誰の顔も笑顔だ。
「おめでとうございます!」
とめたハンターさんが会心の笑顔で、とめた時の話をしてくれた。

「沢の下で(タツメとして)いたらさあ、銃声がして。出たか〜?って思ってたら”とめられなかった”って無線が入った訳よ。で、”どっち行った〜?”っつっても、”逃げた〜!下のタツメ、注意しろ!”ってばっかりで。”右か?左か!?そもそもモノは何よ?”つっても、それでピッタリ返事なしでさ。もういいや、って思ってじっと見てたら、上の灌木のところから黒いのがス〜っと顔を出したのよ。で、来たか!?って思って見てたら、身体を出したんだけど、野郎、俺に気付いたのか、左に変わろうとしたのよ。野郎、逃がすかって、ド〜ンと撃ったら、樹に当たった様な手応えがあったんで、もう一発ド〜ンといったら、ゴロゴロゴロって、転がってきやがって、肝冷やしたよ〜。でも止まったからね、怖々見に行ったら、まだちょっと動いてる様な感じがして、もう一発ドーンとやったら、舌出したもんで、やった〜って(笑)」
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各自、熊と記念写真を撮る。僕は、ハンターサイドとして参加するまで、この獲物とニッコリ笑って撮られた写真って、正直言うと好きでなかったんです。多分、このブログを見てる方は皆、そう思ってらっしゃる方が多いと思う。でも、実際に今回、自分も猟に参加してみて(とはいっても、何もしていないのだけど)、そういう写真を撮るの、ものすごく分かりました。
それは、上手くはとても説明出来ないのだけど、獲物を冒涜して死体に鞭打つというよりは、逆で、とても何だか神聖な想いがあった。僕も、だからタツさんにお願いして、僕のカメラで撮ってもらった。正直、全肯定出来ない事もそこではあったのだけど、この感覚、多分実際に猟に参加しないと分からないと思う。
後にして思えば、この時を境に、僕も感覚がハンターサイドに行った様に思う。
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初めて持った熊の頭は重かった。なんともいえない独特の感覚だった。
ところでこの写真、なんだか疲れきった子供みたいですね(笑)
借り物の大きなベストと帽子と、それに睡眠不足のせいかな?
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ひとしきりの歓喜の輪がほどけて、タツさんが山から降ろす準備をする。口に棒を噛ませて、細引きで口を縛る。手足も縛って、各々を数人で引っ張って、元来た道を道路まで運び出す。
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「いや〜、それにしてもめでたいな!初猟の日に熊が獲れるとは、本当、めでたいよ!」
「いや、本当、この人が居たら、絶対獲れるっていう人、居るんだよね。カメラマンさん、あんただよ!」
「それによ、あんた本当についてるよ。今まで何人もカメラマンを同行させたことがあるんだよ。中には世界的に有名なカメラマンも来たんだよ。でも、誰一人として、今まで熊の運び出しを写真に撮れた人は居なかったんだよ。あんた、沢山撮っときなさいよ」
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まあ、本当、なんて光栄なことだろう。崖であることを忘れて、沢を右から左へ、熊を引く行列の前から後ろへ、縦横無尽に走り回って写真を撮りまくった。30分ほどで300枚程撮ったのか。下山して大分消去したけど、それでもまだ200枚以上は運び出しだけで写真がある。
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運び出しは本当、大変だ。先頭はタツさん。よりよいルートを決めながら引っ張っていかないといけないので大変だ。途中、何度も(わざと)沢に落としたりしながらも、急斜面を難なくクリアして順調に運び出して行く。
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運び出しの方法には、こういう風に皆で地面を引っ張って行く方法と、手足に棒を入れて「駕篭」みたいにして(タツさんは神輿といっていた)運び出す方法、そして、背負って山を降りる方法がある。水上の昔話を読んでいると、昔の人は背負って山を下りたそうだが、タツさんに聞くと、最近では、それをすると「熊が歩いている!」って間違われて撃たれてしまうことがあるそうで、あまりやらない方が良いらしい。
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「じゃ、熊にオレンジのベスト着せて背負ったらどうですか?」
「あはは、それ、面白い」
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基本的に人数が多いときは、引きずっておろすみたいだ。どうやっても引きずれない、断崖とかだと神輿にする様だが。
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「今回は随分マシですよ。俺が大グマ仕留めた時なんて、ずっと断崖続きな山なもんで、”それ!熊神輿だ!”なんて運び始めたのはいいんだけど、ものすごく道から遠くてね。。。足場は悪いし、そのうち真っ暗になってくるし、そりゃあもう大変でした」
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写真を撮るのに必死で、あまり注意していなかったのだけど、あれだけ晴れていた空から、雨が降って来た。
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「岡居君ね、熊を殺すと雨が降るって聞いた事ある?あれ、本当なんだよ」
と、小野さんがニコニコしながら僕に教えてくれた。
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30分ほどで下山。広場の様なところで、車に乗せる前に一服する。

何人かが顔を曇らせて、

「実はさあ、最初に撃ったXさんが下山してねえんだよ。無線を入れても通じなくて。今、携帯を入れてみたんだけど、まったく通じねえのさ」
「・・・・・・・・・・・・」
「いつから連絡とれねんだ?」
「最初に撃った時よ。それ以来全然駄目でさ」

沢を落ちる時に巻き込まれたのか?それとも逆襲にあったのか?皆の胸に暗いものが走ったその時、

「もしもし〜!?状況どうなってますか〜!?」

無線が入る。

「え?Xさん、なにしてたの?今、運び出したよ!」
「え?いや、待機しとけって言われたから。。。で、そのあと、どうも無線が周波数変わってたみたいで。。。。何度呼びかけても応答無いから、どうすべっていいながら待ってたんだよ。。。今どこ?」

数10分後、Xさんも無事合流。記念写真を全員で撮る。雨が強くなって来た。
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「最初、ぬっと現れたんだよ。うわ!来た!熊だ!って、そりゃあもう心臓が口から飛び出そうになって、生きた心地しなかったんだけど、そしたらまっすぐ来ていた熊が右方向を向いてケツ向けたもんだからね、逃げられる〜!ってんでド〜ンっと撃ったんだよ。そしたらケツにあたったみたいで、笹薮の中にもぐっていって。で、こっちをじっと見てて。それでもう一発撃ったんだけど、それは枝に当たってしまって外れて。。。そうこうしてるまに逃げちまって」
「まあ、全員無事で良かった。それじゃあね、あとで全員うちに集ってね。解体するから」

気付いたら、バーヴァーを着ていたお陰で雨にはまったく濡れてなかったものの、結露した服の中は汗でビチョビチョだった。
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〜「解体」へ続く〜
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by oglala-beads | 2007-11-25 12:23 | 2007年・水上(群馬)初猟

猟の話〜その6〜

第二ラウンド

勢子の配置につく。沢伝いに上がって行く様だ。タツさんと、顔は恐いがとても良い人そうなキー坊さんが同行だ。おそらく途中から別れて尾根に向かうのだろう。
割合ほんわかムードで、冗談を言いながら沢沿いの林道へ入って行く。
入ってすぐ、獲物を前に回す為に「トド玉(北海道で、アザラシを驚かせて追い払う為の爆弾。)」を爆発させる。トド玉は、トドの駆除にも使われるそうで、大きく口を開けた時に放り込んでドカンとやるらしい。あの巨体のトドを一撃で殺してしまうほどだから、その破壊力は強烈で、火器に慣れているタツさん達ハンターでも、「ヒロさん、離れていた方がいいよ。俺、耳ふさいじゃう」っていうぐらいのものだ。下手に近くに居ると、爆発の衝撃で石なんかが飛んで来るらしい。
「なにほどのことや、あらん」と(まあ実際は怖々ではあったのだけど)キー坊さんが火をつけて10秒の間に逃げて来ている時、余裕でカメラを構えていたのだけど、そのあまりに凄まじい炸裂音に、後にタツさんが「ヒロさん、吹っ飛んでた(笑)」っていうぐらい、横っ飛びに吹っ飛んだ。シャッターを押したかどうかすら分からない程吹っ飛んだんだけど、確認したら、恐らく衝撃でだとは思うが、ちゃんとシャッターは降りていた。やっぱり、すごい横にブレているけど(笑)
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その後もほんわかムードで上がって行く。
「こんなんでいいのかな(笑)?そろそろ声だして行きますか」
で、声を出して行く。
僕はちょっとほんわかムードを引きずってしまって、声を出し始めるタイミングを逃してしまった。
一度タイミングを逃してしまうと、どうもなかなか声が出ない。二人の声が途切れた時に声を出そうと思うのだが、妙な恥ずかしさの様なものー普段大声を出す事が無いので、妙な声が出たら恥ずかしい等ーを感じてしまって、もうそう思ってしまうと全然駄目で、まったく声が出なくなってしまった。
頭の中では、そんなことを言ってられる状況では無い事を百も承知なんだけど、一度尻込みしてしまうと、本当にまったく声が出なかった。
「あー、俺は駄目だあ・・・・」
そんな自分が悔しくて、泣きたい程、腹が立って、キー坊さんとタツさんが途中で勢子鉄砲を撃ったのに、それを写真に収める事も忘れて呆然としてしまっていた。
「一人一人に別れたら、絶対に声を出す!俺なんか、発声してたんだから、負けない位、でかい声だしてやる!」と心に誓うんだけど、自分が惨めで仕方なかった。

20歳になったばかりの頃、あるオーディションに合格して、ミュージシャンになるために上京した。作曲・編曲とリミックスの腕を認められての事だった。しかし、もともと声が悪かったので、正直、歌には全然自信が無かった。そこで、なんとか歌を歌う事だけは避ける様にしていたんだけど、折からのシンガーソングライターブームで、それを避ける事が難しい状況になって来た。歌うか、諦めるか。それでやるだけやってみようということになり、1年間ボイストレーニングを積んだ。それでクラッシックのオペラを歌う為の基本ぐらい、もしくは舞台俳優ぐらいは通る声が出せる様になった。しかし元々の悪声は治るよしもなく、ハーブだのアーユルベーダーだのと色々と試したが、結局挫折し、非常に多くの人達に迷惑をかけてミュージシャンを諦めて逃げ帰って来た。
僕は、元々、自分が嫌になる位、臆病で卑怯な性格で、面と向かって逃げなくなったのは最近の事だと思う。「俺、最近、ちょっと格好良くなってきたんじゃないか?」なんて思うところもあったのだけど、なんだ、こんな大事な時に声が出ないじゃないか!

自己嫌悪で吐き気を催しながら、自分ひとりで左の山を見ていた。タツさん達は今から追い上がる右の山に注意を向けていた。上手く説明出来ないけど、自分嫌さで皆と違うところを見ていたのかもしれない。
キー坊さんが左のカーブの真ん中にさしかかる少し手前を歩いていた時、そのカーブの向こう側で、60〜80センチ位、真っ黒な犬の様なものが僕の見ていた左の斜面を、ものすごいスピードで駆け下りて来た様に見えた。このカーブの真ん中辺りには大きな樹があり、また、斜面は道辺りで突然切れる為に崖状になっていて、キー坊さんからは見えない場所だ。タツさんは右の斜面あたりにある樹の切れ目あたりの痕跡を見ている。

『まさかね、見間違いだよね。タツさんが気付かないものを、俺なんかが気付くはずないし』
と、自己嫌悪をいつまでもしつこく引きずっていたのもあって、報告はしないでいた。
そして、そのカーブを越えた時、タツさんが声をあげた。

「熊だ。相当新しい足跡だよ。この崖を途中までこうやって降りて、後は飛んでいる」
と、確かにまだ落ち葉が積もっていない足跡を見つけて言った。それはさっき、僕が黒い何かを見た場所だった。
「行ったのか?だとすると、この右の斜面を登ったのか・・・・」
「・・・あの・・・・実は、さっき・・・・・」
タツさんに説明していた時、

・・・・・ター・・・・・・ォォォォォォォゥォター・・・・・・・ォォォォォォ・・・・・・・

タツメの鉄砲の音が響いた。
3人で顔を見合わせる。

「ありゃあ、勢子じゃあねえな」

無線が聞こえ始めるが、切れ切れだ。しかし、切れ切れながらも妙に緊迫した空気なのはハッキリと分かる。

「ブタかあ?」

切れ切れの無線の中で、ハッキリと、

「熊」

と聞こえた。キー坊さんとタツさんにも緊張が走る。

「この無線の感じだと、まだ仕留めてない。キー坊さん、弾、入れといた方がいい」
と、タツさんがゆっくりとスラッグ(散弾銃の弾で散弾では無く単発弾。大物狙い用)を詰める。

「この足跡の主だとしたら、相当でかい。半矢なら大変だ」
タツさんの背中から強烈な殺気が流れ、周囲に慎重に目を配ったその時、

ター・・・・ター・・・・・・ぉぉぉぉぉぉぉ・・・・・・・ター・・・・・・ォォォォォ

「おいおい、結構鳴ったぜ?戦争してんのか!?」

ほどなく、無線から沢を転がったこと、とめたことを確認した事が聞こえて来た。

「おーし!やったあ!!」

*この時の事は、「猟の話〜その1〜」に詳しく書いてあります。
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by oglala-beads | 2007-11-24 10:56 | 2007年・水上(群馬)初猟

猟の話〜その5〜

第二ラウンドの猟場を決めるのは、かなり紛糾した。
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30分はもめて、ようやくタツさんが前夜に推していた場所に決定した。
よく分からないながらも、漏れ聞こえて来る話を聞く限り、どうもその場所は今までみんなノーマークに近い状態だった様だ。

作戦を立てる為に、ちょっと休憩を置いて、再び一カ所に集る事になった。

休憩の途中、近所に用事があったのもあって、タツさんが気をきかせて、古民具を集めた収蔵館の様なところに連れて行ってくれた。
収蔵館自体が古民家で茅葺きだ。中には囲炉裏があったり、昔に使われていたであろう道具の数々がところ狭しと並べられている。看板には、「貴重で高価な骨董品よりも、ちょっと前まで、こういうものを使って生活していた、そうした民俗的な、消えつつあるものを展示しています」という趣旨の事が書いてある。
こういう民具を見ると、僕なんかは「あ〜、懐かしい」という気分でも、ほっとするという気分でも無く、なんというか、むしろ重苦しい、むっとしたむせ返る様な息苦しさを感じる。実際に使用されていた民具ということもあるのだろう。
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水上は現在ではかなり豊かな町の様に思う。スキー場は有名だし、先に述べた一の倉沢等の登山のメッカでもある。温泉もあるし、今回お土産にも買ったリンゴは本当に驚くぐらいに甘くて美味しい。観光産業が盛んで自然の幸に富んでいる。おまけに交通の便が良く、東京からは新幹線一本で来れるし、高速も水上出口というものまである。
しかし、タツさんに頂いた水上の昔話などを読んでいると、先人達・・・といってもその方達はまだ御在命だ・・・は相当苦労された様だ。皆、冬でもシャツ一枚といった薄着で、まだ小さいうちから身を粉にして働き詰めに働いて、でもそれでも喰えずにいた様子が痛い程、文面から伺える。僕なんぞは一人で苦労している気になっているけど、その本を読む度に我が身が恥ずかしくなって来る。
要は、本来、水上の様な山野の幸に恵まれた場所というのは、裏返せば厳しい自然の懐ということになり、人を拒絶するギリギリのラインであったのだろう。
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熊狩りというと、秋田界隈のマタギが有名で、僕もタツさんのことを「マタギ」として何度も紹介しているが、実際、マタギは秋田周辺のものであって、水上の熊の巻き狩りとはまた、全然違った文化だ。しかし、マタギというと、一般的には「群馬の猟師」というよりは通りが良く、そのこともあって、水上の熊ハンターをもマタギとくくってしまうこともあると思う。
しかし、中に入って見ると、水上には水上の、マタギには負けない精神的風土がある。僕は今回タツさんについて彼らと行動を共にして、水上の熊猟師は、マタギではなく、「水上の熊猟師」として世界に誇るべきものがあると思った。それは、本当に我々に近い先人達〜祖父ぐらいの代〜までが苦労に苦労を重ねて編み出した知恵なのだ。
だから、これから彼らについて聞かれたら、「水上の熊猟師だよ。マタギも素晴らしいけど、彼らも素晴らしいよ!」と答えようと思う。

ともかく、先人達の苦労の息吹が染み込んだ民具が、無言で己の人生を問いかけて来る様な気分に襲われる。
「入っていいんだよ」とタツさんに促されたのだが、そういう感覚もあって、入り口で押し返されてしまった。展示の方法が、こういった山里の茅葺きで、非常にリアルだったこともあるだろう。

タツさんは、一緒に居て、驚くぐらい、町のお年寄り達と仲がいい。それは若者としてお年寄り達とお付き合いしているというよりは、お年寄り達の方がタツさんを若者として見ていない様な、なんだか、にわかには信じられない様な近さ、親しさだ。想像しにくいと思うけど、そうだな、例えば、道で、お年寄り同士がばったり会った時の立ち話。それの片一方がタツさん、っていうような感じの自然さ。
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その民芸館の番をしてらしたのは、おばあさんというには早い位の年齢のおばさんだったのだが(正直、水上の人はシワが少なくて肌が奇麗なので、実年齢はさっぱり不明)、タツさんと親しく話を始め(もともとかなり親しい知り合いらしいのだけど)、
「ちょっとイタズラしてたんだよ。喰うかね?」
といって、柚酢(?)で漬けた正護院大根を出して来てくれた。
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これがね〜、もう本当、すんごい美味しくて。。。。。
身体を動かした後のせいもあるのかもしれないけど、本当、なんでこんなに美味いの?ってぐらいに美味かった。僕は酢が本来苦手なんだけどね(笑)。
これに限らず、今回の旅行で食べた大根系のおつけものは全てが最高に美味かった。まず、タツさんの、確か「パワフル漬け」だったかな?それでこの分でしょう、で、最後にタツさんの知り合いの剥製屋さんで頂いた沢庵。漬け物好きの配偶者なんぞを連れて行った日には、恐らく定住することになるんじゃないかな?
なんでしょうか?やっぱり気温等、美味しい漬け物を漬けるのに合ってるんですかね?悔しいけど、京都の錦市場で食べられる漬け物より余程美味しいです。漬け物食べに行くだけでも、水上に行く価値はある。

民芸館のおばさんの薄着に軽く驚き、酢の爽やかさに癒され、水上の水で入れたお茶を呑んでいると、身体が洗われて来るのを感じる。妙に清潔になった気がする。遠くには雪を頂いた谷川岳。杉が少ないお陰で、山全体が燃える様な錦。若干曇って来て、鉛色の低い雲(本来通常の高さの雲なのだけど、見ているこちらの標高が高いので)がたちこめているのだけど、濁った色でなく、澄んだ鉛色で、雪を待つ残り少ない柿の熟した実が寒空に揺れる様が、心に何かを訴えかけて来る。
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妙にじっとしていられなくて、そこらを歩きまわった。

「じゃあ、そろそろ行きましょうか。集合時間が近くなった」
「じゃあ、ありがとうね。ごちそうさま」

車に乗り込み、第二ラウンドの集合場所へ。
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第二ラウンドの場所は範囲が狭くて短時間決戦だそうだが、勢子にとってはキツイ場所なのだそうだ。また、獲物を置いていきがちになる(勢子の目を逃れて隠れる場所が多い?)、勢子の実力が問われる場所の様だ。
第二ラウンドはタツさんと共に、勢子サイドから猟を見る。
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by oglala-beads | 2007-11-23 10:27 | 2007年・水上(群馬)初猟

猟の話〜その4〜

第一ラウンド 〜第二話〜
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尾根沿いにタツメが入っていく。8人は居るか。非常に広範囲な網だ。各自が持ち場についてゆく。
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本命の矢場(本タツ)は我らがタツさんだ。群馬1の優秀な鉄砲の腕と獲物をギリギリまで引き寄せる度胸、才能を買われてのことだ。実際、弱冠32歳にして、タツさんが喋り始めるとグループのメンバーは黙って話を聞いている。末恐ろしいハンターだ。

本タツに入り、最初に矢場を確認して、矢場界隈で邪魔になる小枝等を取り除いていく。これは例えば、少し動いた時等に音を出さないためだ。そうやって矢場を固めて足場を作り、座るなり立つなりして、勢子が追い出した獲物が近づいて来るのをじっと待つ。
そうしたタツさんの動きを見ていて、指示された場所を僕も一生懸命整える。ナタを抜いて、折れて音のしそうな枝を片っ端から切っていく。このナタ、実は父が使っていたもので、割合太い枝用に刃がつけてあったのか、それとも父の研ぎが下手だったのか、事前に見てみるとあまり刃が立っていなかった。そこで水上に入る前に軽く研いでいたのだが、それでも小さい枝を切るのにはまったく役に立たない。カービングナイフを出して切り出したのだが、それだと逆に時間がかかる。まだ勢子が配置についていないので大丈夫だろうと、かなり必死にナタを振るってしまって、あとでタツさんに注意されてしまった。近くに獲物がいるかもしれない訳で、本当、失敗した。
「出来る限り切らず、切る時はここから、音を出さない様に、こうやって切って下さい」
なるほど。これが自然に出来る様に練習しないと。

本タツを見て回っている時、タツさんが僕に「そっと来る様に」という合図を出した。
そっと歩いて・・・・行くつもりが、そこらの枯れ枝を踏みまくって、豪快に音を立てながら近づいた。タツさんが指差す方向を見ると、カモシカがすぐそばに居た。
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まったく動かない。じっとこちらを見ているが、気配が無い。

「人を怖がらないんですね。自分が天然記念物で撃たれないことが分かっているからですか?」
「それもあるかもしれないんだけど、それよりも奴らはあれで身を守っているんですよ。ほら、人がまったく動かなかったら、やつら、そこに人が居る事を分からないでしょう?」
「・・・なるほど・・・剛胆で動かないのでなく、あれで身を守っているんだ・・・」

タツメに落ち着く。僕が座った場所はタツさんから15メートル弱後方、僕から正面を見て11時の方向だ。傾斜角30度ぐらいの斜面か。斜面の上からタツさんと向かいの斜面を見ている形になる。
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待ち時間が長いため、タツさんにフィールド用の座布団を借りる。それを敷いて座るのだが、斜面なために尻の座りが悪い。足場を固めて出来るだけ身体の力を抜いて、後ろの樹にもたれかかれるポジションを探す。ずってしまうと上着の後ろがまくれ上がる形になるので、冷えない様に、何度か背中の状態を直す。

タツメに入って30分ぐらいか。バイブにしていた携帯が鳴る。静かな森の中では案外大きな音に聞こえる。が、木の葉の降る音はそれ以上だし、風もあるのでまわりに聞こえる大きさではないだろう。

勢子が動き始める。タツさんが貸してくれた無線のお陰で、状況が手に取る様に分かる。勢子は大きな声を出して獲物を追い立てていくのだけど、時折、タイミングを見計らって鉄砲を打つ。それを勢子鉄砲という。
最初は無線で「撃ちます」と聞こえても、鉄砲の発射音は聞こえて来なかった。それほど開始点は遠かったのだろう。
それが、二時間も経過して足が寒さでしびれて来た頃、次第に無線もしっかりと入る様になり、勢子鉄砲の音もハッキリとしてきた。

「7番さん、いまどのあたりですか?」
「今、もうすこしで尾根です。黒木(マツなどの常緑樹)を見下ろします」
「了解。13番さん、7番さんが確認できますか?」
「いや、ここからは確認出来ません。いま、道の少し上辺りです」
「了解。一発撃ってもらえますか」
「了解」


・・・・・・・ター・・・・・・・ォォォォォ・・・・・・・・・・・


「えー、今尾根に着いたんですが、向こうの尾根に一頭見えました。タツメに向かっています」
「了解。ものは?」
「ブタ(イノシシ)一頭」
「了解。動きを教えて下さい」
「・・・見えねえな。逆光で。申し訳ない。逆光でさっぱり見えません。あー、くそお」
「了解。7番さんね、尾根を降りて黒木のほうへ行ってもらえますか?」
「了解」








「今、沢のところにいるんだけど、笹が上から見えるんだけどね。どうも笹が妙な動きをしてるわけさ。一カ所で。ちょっと確認しますね。・・・7番さん、今、どこ?」
「ちょうどその沢の反対側あたりだと思われます」
「了解。ちょっと直接降りてくのは恐ろしいやね。2発ぐらい撃ってもらえますか?」
「了解」

ター・・・・ター・・・・ォォォゥォォォ・・・・ゥォォォォ・・・・・

「動きはねえなあ。ちょっと降りてくらあね」
「今、沢の中に入りました。足跡ありますね。かなり新しいです。飛んで滑ったような、なめたような跡です。タツメ方向に行ってるようにみえるんだけど」
「さっきのブタですか」
「いや、これは熊です」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・了解。13番さん、黒木に向かって来て、笹薮を囲む様に上がって来て下さい」
「了解」
「7番さん、黒木を回って下さい。13番さんも来てるから」
「了解」


お・・・・いおい
お・・・・いおい

遠くからぼんやりと勢子の声が聞こえて来た。

「13番さん、撃ってみて」
「了解」

ター!!!!!!ウォンウォンウォンウォン・・・・・・ゴ〜・・・・・

勢子鉄砲が大分近くなって来た。

ほぉ〜い、ホイ!
ほぉ〜い、ホイ!

「もう大分黒木あたりに来てると思うんだけどなあ。タツメ方面から確認出来ますか?」

「・・・・7番さん、確認しましたよ」

タツさんの低音が無線に入る。
タツさんが、勢子の一人の姿を目視出来た様だ。

包囲の網が大きすぎたのか、獲物はどこからか抜け出した様だ。

第一ラウンド終了。


全員尾根道に出て、下山。
やはり皆、浮かない顔だ。



「ヒロさん、8時ちょっと過ぎぐらい、携帯鳴ったでしょ?」
「え?鳴ってないっすよ!バイブにしてたし」
「ウィ〜ン、ウィ〜ンって」
「・・・・・あ、鳴った鳴った!バイブでね!うん、鳴りましたよ・・・・え?聞こえたんですか?まさかね!」
「(笑)聞こえましたよ。ほら、だから、山で本来しない音っていうのは良く分かるものだって言ったでしょう?ナイロンのシャカシャカ音とか」
「・・・・・・・・」
「問題ないですけどね。俺も電源切らずにバイブにしてるし」
「・・・・聞こえるんだ・・・・じゃあ、野生動物なんかにはもろ聞こえですね・・・・」
「ですね」
「・・・・・」
「あと、なんどか足を動かしてた」
「・・・・・・すいません、それも分かったんだ」
「いやいや、大丈夫っすよ。俺なんか途中で眠くなって仕方なくなって、それで途中から立ったんだから」
「まじっすか!?タツさんさすがに気配が無いし、動かないなあって思ってたんだけど」
「寝てたんですよ(笑)。待ち時間3時間だもん!昨日あんまり寝てないしね。ヒロさんも眠かったでしょう?」
「いや、気が張ってたもんで(笑)。それと、右後ろ辺りから視線を感じて、それが気になって気になって」
「右後ろね、分かりますよ。多分さっきのカモシカじゃないのかなって思ってたんだけど、もしかしたらブタか熊が抜けたのかもしれないですね・・・・あ、そうそう、途中、キツツキ来てたの気付きました?」
「ええ、僕の右20メートルぐらいのところでしょう?あれ、僕からは良く見えたんだけど、タツさんからも見えたんですか?」
「見えましたよ!俺、あいつが来て、飛び立つまで見てたもん」
「あ〜、左から来てましたね。僕は飛んだのは見えませんでした」
「ヒロさんのところからは飛ぶのは見えにくかったでしょうね。あれ、アカゲラかな?」
「ええ、アカゲラでした」

山を降りる途中、行きしなにも見た、イノシシが掘り返した跡を観察する。
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「残念でしたね」
「ねー、居たのは居たんだけどなあ」
「次のラウンド、昨夜タツさんが推してたところになりますかね?」
「う〜ん、反対意見が出るだろうな・・・・」

〜つづく〜
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by oglala-beads | 2007-11-22 11:36 | 2007年・水上(群馬)初猟

猟の話〜その3〜

第一ラウンド 〜第一話〜

11月15日(木曜日)
群馬県の猟解禁日。5時起床。6時に集合。4時半頃から無線が入り始める。誰の声も弾んでいる。解禁日への待ちきれない期待感に満ち満ちている。
下手に固形食を摂って腹具合を悪くしては良くないので、前日に購入した野菜ジュースとゼリー状の栄養補給食、そしてビタミン剤を摂る。リュックにはおむすび一つとスティック状のカロリーチョコレート。そして水分。

服装は、綿のTシャツの上に毛の長袖Tシャツを重ねて、その上に軍用の毛アクリル混のジップアップ・セーター。下は毛アクリル混のズボン下に、細めで薄手の伸縮性に富んだ綿の迷彩軍パン。靴下は軍足の上に毛アクリルの厚いもの。靴はスパイク付きの長靴。それを足首へのフィット感を高める為にベルトで縛って着用。手には細密ゲージで編み込まれた綿の軍手。ジャケットには、バヴァー社のビューフォート。オイルコーティングされた防水ジャケットで、狩り用にデザインされている。それの内部に防寒ライナーを付けて着込む。
勢子に回って暑くなって来た時にジャケット等を脱いで入れておける様にリュックを背負う。また、ジャケットの上にオレンジ色のベストを着て、頭にもオレンジ色の帽子を着用。これは動物と間違われて撃たれないためだ。
腰にはナタ。そして鞣しなどに使う刃渡り10センチほどのカービングナイフ。
耳にはタツさんに借りたハンディの無線。

前日の夜は星が奇麗だった。ということで、翌朝は放射冷却で相当冷え込むという事だ。覚悟していたのだが、「案外暖かいね」とタツさんと言いながら車に乗り込む。緊張から血圧が上昇して、やたらとセキが出る。カーステレオから流れる早めのアシッドのリズムが緊張感に丁度良くシンクロして、逆に心が落ち着いて来る。山を大分登って、樹の残り葉の量が減って来たところの駐車場で、既に殆どの人が集合していた。まだ陽が昇るギリギリで薄暗い。どの顔にも身体にも力が満ち満ちて、表情には緊張感が漂っている。覚悟が無かったら気圧される程の空気が駐車場一帯に満ちている。人数は、僕らの後から来た人も含めると15人は居たか。

前日、昼間にお会いして挨拶をした、長老的存在の小野さんが槍を片手に近づいて来た。

「あのね、一応、これを持っておきなさい・・・・・あ、いやいや、遠慮しなくていいから・・・・・昔の人はね、これで熊とってたの。こんなもんでよ。すごいな〜って思うよ。ちょっと前にね、銃持ってない人が応援に来てくれたことがあるんだけど、みんな竹槍をもってんのよ。竹を斜めに切っただけのね。知らないってのはすごいことだなあって思うんだよね。熊の恐さをしらないもんだから、みんな全然平気でね、熊とるぞ〜なんて言ってんだもん(苦笑)」

仕方ないな〜といった感じで、持ち場での心得を色々と教えてもらう。

「君はタツ君と一緒に最初、タツメに入るんだけど、タツメっていったら、勢子が苦労して追い出して来た獲物を待ち受けていて最後、討ち取る係なわけよ。タツメに入った人間が馬鹿をやると、それまでの苦労が水の泡なんだよ。・・・ともかくね、動いちゃいけない。動かないとやつらは、そこに人が居る事に気付かないんだよ。なに、熊にしても目は悪くて殆ど見えてないんだよね。鹿も色は分かんないし。でも、ちょっとでも動いたらわかっちゃうんだよ。だから絶対に動いたら駄目だよ。頭を横に動かしてもいけない。どれだけ近くに来て、怖くても、絶対に動かずにいたら、気付かずにスレスレを通って去っていくもんなんだから」

「あとね、素人は、隠れるというと、樹の後ろなんかに隠れるんだけどね、それをすると、来たかな〜って覗いた時に動かなきゃいけないわけでしょ。だから樹の前に居るんだよ。あと、傾斜に居ると、注意しないと、自分の姿が空に浮かび上がってしまうことにもなるから、うまく樹を後ろにしたりして影を消さないといけないの。わかる?」

「あ、それ、昨日タツさんから教わりました」
「あ、そう、それならいいけど。ま、ともかくね、絶対に動いてはいけないよ。動かなければ良いものが見れるんだから」
「わかりました。ありがとうございます」
「いやいや、ま、がんばんなさいよ」


「タツさん、小野さんが槍を貸してくれました」
「ははは・・・・、まあ、自分の身は自分で守れって事ですね」
「・・・・・・・・なるほど、そういうことか(笑)」


中央では作戦会議が白熱している。

「知らない顔のハンターさんもいるなあ」
「タツさん、あのひと、装備すごいですね」
「ほんとですね(笑)・・・・あ〜、本当、凄いなあ」
「あ、タツさん、どうしました」
「う〜、お腹痛くなって来ちゃった」
「まじっすか!?緊張ですかね」
「多分ね・・・やばくなったら、どっかで大砲うってきますよ」


ほどなく作戦会議が終わり、めいめいが車に乗り込み、勢子は勢子の、タツメはタツメの持ち場に向かう。その勢いたるや、凄まじく、まさに鬼神の様だ。


今回の巻き狩りの範囲は結構大きい方みたいで、勢子が追い立ててタツメにやってくるまでに2〜3時間はかかる様だ。事前に主要なメンバーで検討に検討を重ねて決定した猟場だ。

10分弱で猟場入り口の駐車場に入る。途中タツさん、大砲を放つ。僕も小便を済ませておいた。

いよいよ、しかし「行こうか」の小さな掛け声で、静かに山へと入って行く。
カメラの露出補正を、山に合わせて−1.5にして、小さく息を吸い込んで後に続く。
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〜明日へ続く〜
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by oglala-beads | 2007-11-21 12:09 | 2007年・水上(群馬)初猟

猟の話 〜その2〜

11月13日(火曜日)
三ノ宮まで車で配偶者に送ってもらい、義理の妹がパティシエをしている洋菓子のフーケにて手みやげを購入。三ノ宮より阪神電車にて大阪へ。鶴橋へ出て取引先のNaluへサンプルの商品を持参し、打ち合わせ。オーナーの谷井さんのご実家のそば屋にて名物のカレーうどんに舌鼓を打った後、なんばへ移動。21時、OCATより日本中央バスの大阪〜群馬高速バスに乗る。

11月14日(水曜日)
群馬県、高崎駅西口に午前5時20分頃到着。駅前のトイレでコンタクトを入れる。ついでに大便を済ませておこうと思ったが、どういうわけかすべての個室に鍵がかかっている。人の気配は無し。犯罪予防か。あまり腹は減っていなかったが、駅ビルに入っている吉野家にて納豆ご飯を食べる。牛丼の臭いにつられて、ついでに牛丼の大盛りを食べる。6時23分、高崎駅発上越線普通長岡方面水上行きの電車が発車。景色が徐々に明るくなると同時に、高崎界隈の都会の空気が次第に山の空気になってくる。途中、遠く白根山とみえる山が雪を頂いていた。
更に進むと、前方に谷川岳が見えて来た。水上町のシンボルだ。やはり頂上に雪を頂いている。狂喜して電車内を右へ左へと走り回る。水上駅7時26分着。
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改札を抜けると、大きな熊が・・・いや、兄さんがOGLALAのキーチェインをつけて背を丸めていた。生タツさんだ。実は初めて会うのに、初めての気がしない。会話もいきなり、「それで、さっきのメールの続きなんだけど・・・」というノリから入る。

「ヒロさん、谷川岳、見えました?」
「ええ、ええ。見えましたよ!やっぱり高い山なんですね。雪つもってた」
「実はね、今朝が初冠雪だったんです。ついてますよ!ラッキーボーイだな。こりゃ、きっと熊とれますよ!」
「ええ、そうだといいんだけど。。。でもね、とれなくても、これただけで、もう本当、嬉しいですよ」



仕事のことやなんやと色々あって、今回の水上行きは最後まで微妙だった。でも、一旦自分の腹が固まると、どういう訳かすべての不具合が解消されて、おまけに母が(母は僕が熊狩りに行く事は全く知らない)「宏顕は普段、欲しいものも買わずに一生懸命頑張っているから・・・」とすごいタイミングで小遣いをくれたりして、家計にも負担をかけずになんとか行く事が出来る様になった。
ちなみに、今、うちでは姉にガンの疑いがあるということで検査が繰り返されていて、母はすっかり精神的に弱っていた。
「宏顕にまで何かあったら、私は頼りにするすべてを失うのだから、もう危ない事は一切しないでよ」
って、まるで僕が危ない事の10本の指に入りそうなことをするのを見越した様に、少し前に言われていた。それも今回の水上行きの決心を鈍らせる一つにもなっていた。

しかし、「行く」と決意するのに、そう時間はかからなかった。
一旦腹をくくると、全ての物事は、まるで仕組まれたかの様に上手く動いてくれた。



熊に限らず、狩りには色々な方法がある。
大きく分けると罠を仕掛けて獲物がかかるのを待つ狩り(罠を使った熊狩りは禁止)と、鉄砲を使って獲物を追う狩り。
そして後者にも、獲物が出そうな場所を自分の足で歩いて、獲物を探して仕留める単独猟と、2人以上、もしくは犬を使って獲物を追い立て、一カ所におびきよせて仕留めるタイプの猟。
熊の場合、巻き狩りといって、大勢の人数を出し、「勢子」と「プッパ」に別れ、大体この辺りに居るであろうという予測をして、勢子が声を上げたり空砲を撃ったりして獲物をプッパの方へ追い立てて仕留めさせるものが有名だ。このブッパという言葉は秋田のマタギ衆の用語で、水上ではタツメと呼ばれている。
ちなみにマタギ用語では、棟梁のことをシカリと呼び、獲物が見えている場合、向かいの山に登って獲物を動きを伝達し、動きを指示することがある。この役目をムカイマッテと呼ぶらしい。

要は巻き狩りはグループ猟なわけなのだが、めいめいが勝手な動きをしていては獲物を包囲の中から逃してしまう事になる。全員が無線を持っているのだが、それでも各自が山を知り尽くしていて、なおかつ息が合っていることが基本になる。その中に、しかもその年の猟を占う初猟に「おいで」と言われる事は、有り得ない事だ。非常に名誉な事だ。呼ぶ人からしても、変な人間を呼んでしまうとグループの他の人に迷惑がかかる。人を呼ぶということは、その全てを引き受ける覚悟の要る事なのだ。それほどのリスクを承知で、タツさんは僕を呼んでくれた訳だ。
それを重々承知なのだから、僕にも大きなプレッシャーがあったことは想像に難くないだろう。
一年近く前から、走り込んだり、山を登ったりして洋服を考えたり、膨らませてしまっていた筋肉を絞って、体重を落として体力をつける努力をしてきた。


タツさんのランクル(トヨタのランドクルーザー70)の助手席に乗り込み、水上の町を走る。大きくは一本道だ。気温は思ったよりは寒く無いが、神戸とは異質な寒さだ。
水上駅より15分足らずで、タツさんのご一家が営んでおられる料理旅館「尚文」に到着。先に届いていた荷物をほどき、山行きの準備をする。それが済んでぼんやりとしていると、朝ご飯に呼ばれる。
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タツさんが山で採り、または育てたキノコや山菜のたっぷり入った味噌汁。なんと味噌自体もタツさんが作っている達也味噌。炊きたての厳選された米、卵。タツさんが山で採って来たフキで作ったキャラブキ、漬けたタクアン・・・・その他諸々。ほんの2時間程前、吉野家であれだけ食べたのが嘘の様にペロっと平らげた。
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尚文はタツさんが山で採って来たり育てたりした山菜類と、同じく山で狩って来た獲物の肉類が最も大きな売りの宿だ。それを目当ての常連が多く、同じくそれ目当てのメディアの取材も多い。いわゆる高級旅館というカテゴリーよりは、高級な、料理旅館というカテゴリーの方がしっくりきているように思うし、常連さん達もそう捉えている様だ。詳しくは尚文のホームページを。


食後、「ヒロさんに食べさせたいから、俺の椎茸、ちょっと取っとこう」と、尚文の裏山へ。
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タツさんが栽培した椎茸だ。呉々も言っておきますが、尚文トレーナーを着た熊が椎茸を泥棒している写真ではありません。タツさんでございます。

「俺の作った”なめこ”も食べさせてあげるから」
と、今度は車に乗って、少し離れた山へ。
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「ヒロさんに是非見せたい場所があるんだ」
といって連れて行ってくれた場所は一の倉沢。日本のクライマーの聖地であり、その姿は見るものを圧倒する神秘的な力に満ちている。
水量のある沢を流れる水は真の透明で、身体の中まで美しくなれる様な美味しい水だ。
そういえば、タツさんやお母様を始め、水上の人はすごく皆肌が奇麗でシワが無い。
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その後、罠を仕掛けに行った。
「ブタ(イノシシ)用です。これをこうして、ここをこうして・・・・あ、これは企業秘密です。ヒロさんにしか教えませんから」
ということで、写真もコントラストを強くして撮った。まあ、罠をかける雰囲気だけ味わって下さい。
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タツさんの休憩時間にそれだけを回り、急いで尚文へ戻る。
眠気に襲われ、しばらく寝かせてもらう。
すぐ近くで、タツさんの飼っている可愛いウサギちゃんがピョンピョンしている。白い毛をなぜていると知らぬ間に眠りに落ちていた。

目覚めると回りは既に暗くなっていた。タツさんの甥っ子、姪っ子の渓矢君ときさらちゃんを保育園に迎えに行く。人見知りしない可愛い子供達で、数時間、一緒に楽しく遊んだ。

タツさんの仕事終了後、翌日の狩りの打ち合わせへ参加させてもらい、挨拶をさせて頂く。
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一気に緊張が増し、外の寒さ以上に身体に震えが走る。
*注 しつこい様ですが、熊サイドの作戦会議の写真ではありません。全員、人です。

タツさんが一人暮らししているリゾートマンションに到着して、大浴場で身体を暖め、酒盛りもそこそこに2時頃就寝。
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by oglala-beads | 2007-11-20 14:51 | 2007年・水上(群馬)初猟

猟の話 〜その1〜


ター・・・・ター・・・ォォォ


「・・・お?」
「勢子鉄砲じゃないな」
「2発でしたもんね、あの間隔で」


尾根を幾つか跨いで、タツメ(射手)方面から切れ切れの無線が入る。



『ジッ・・・・・たんだけ・・・!!』

『・・・・ジッ・・・・・』

『・・番さん・・・・、・だりですか!?』

『・・・ぎで、・・・げて・・・・・・ジッ』

『了解。ブタですか!?』

『・・・・熊・・・・・逃げ・・・・・ジッ』




「半矢かよッ!?」

「・・・キー坊さん、タマ、入れといた方がいいですよ・・・」



山に目を配ったまま、タツさんがゆっくりとスラッグの弾を込める。
「熊が居る山」が、僕にとって非現実な、「熊が襲って来る山」に変わった。
山の色の緑が色彩を落し、赤と黄色が鮮やかさを増して見える。
タツさんの大きな背中から一瞬殺気が流れ、山の中へと溶けて行く。木々の一本一本までが、手負い(半矢)の熊が飛び出して我々に襲いかかる瞬間を、今か今かと待っている。
僕は、この瞬間に我が身を置くために、ここに来たのだ。



一年前、ミクシの「マタギ」のコミュニティーで阿部達也さん(タツさん)を知った。ブログを読ませて頂いて、彼の山や命、そして仲間に対する真摯さ、そして生き方に対する大きな想いを感じた。それは昔、一頭一頭の獲物に対し、大きな感謝の心を持って、自らの命を引き換えに対峙した、バッファロー・ハンターだった頃のラコタ、そしてマタギやアイヌのハンター達と同じ種類のものだった。
早速、彼に感銘を受けた旨のメールを送らせて頂いたところ、すぐに御返事のメールを頂いた。

今にして思えば、タツさんのところには、そういったファンメールが沢山来ていたと思う。しかし、僕とのやりとりのなかで、タツさんも、他のファンの人達とは違った種類のものを僕に感じていた様だ。

程なく、タツさんから熊の生皮を頂いて、自力で鞣した。
そして、「ヒロさん、今年は、猟の解禁日、一緒に山を歩きましょう」と、度々誘われる様になった。しかし、現実問題として、それをなかなか許さない環境もあって、「行けたらいいな」という程度にしか考えてなかった様に思う。更には、それに参加してしまったら、自分の中でもう後には戻れない様な、何かが生まれるであろうことも分かっていたのだ。正直な話、そこまでの覚悟は出来てなかった。

その僕が、今、ここに居る。勿論、来た時点で心はもう定まっていた。




仕留められずにケガを負った(半矢)熊は非常に危ない。
一緒に居る勢子(獲物を射手の方へ追い込む係)二人には銃がある。
しかし熊のスピードは恐ろしいぐらいで、時速60キロが出るそうだ。平地での時速60では無く、山でのその速度ということになったら、恐らく目にも留まらない速度だろう。そして、手負いの熊は必ず人を襲う。自分の生存をかけて襲って来るのだ。場所によっては、鉄砲も役には立たないだろう。

すばやく周囲に気を配ってみたが、周囲には熊の攻撃から身をかわすのに必要な場所が全く無い。襲う熊の側からは非常に有利な場所だが、襲われる人間にとっては最悪な場所であったことに気がついた。

その時、タツさんの大きな背中と銃に絶対の信頼を置きながらも、それに頼る気持ちが消えた。
襲って来る熊と、一対一で対峙する気持ちになった。他の二人が視野から消え、回りの景色の中から、自分にとって有利な場所がぼんやりと見えて来た。
一歩、後ろに下がって、崖の手前の樹に近づこうとした。



ターターター・・・・ォォォ・・・・・・ォォォ・・・・ォォォ・・・・・


『ジッ・・・・転がっていきました。下の勢子は注意してください』
『とめれなかったのでしょうか?どうぞ』
『沢を転がりました。とめたと思うのですが、確認出来ていません』
『了解』
『確認してきます』
『充分注意して、ゆっくり行って下さい』
『了解』



『・・・・確認。とめました』



「よお〜し!やったあ!!!!!」


躍り上がる笑顔。


「すげー!すげー!本当、すげーよ!ヒロさん、本当、ラッキーボーイだよ!!ヒロさん居るから、とれると思ったんだよね!来た日に谷川岳の初冠雪を見れたんだし、ラッキーボーイだと思ったんだよね!!!ね、本当、とれちゃったよ!」


これから数日、何回かに分けて、この数日間に僕が体験した猟について書いていこうと思います
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by oglala-beads | 2007-11-19 22:10 | 2007年・水上(群馬)初猟